熱きハートとタフな精神で市場に挑む
ミリオン合金・北関東支店
1.000tギロチンシャー導入
関東のステンレススクラップ市場で独特の存在感を放っているミリオン合金・北関東支店は、スクラップ発生内容の変化、市場のニーズに対応して、この度1.000dギロチンシャー(稲垣製作所製)を導入した。伴ってヤード拡張工事にも着手し、総投資コストは約3億。大胆な資本投下の背景には、ONLY ONEのステンレススクラップヤードディーラーとして生き残る同社の頑ななまでの決意がある。
(取材・文・構成 棚町)
設備武装でBIGディーラーに対抗
ミリオン合金・北関東支店は栃木県佐野市という北関東の内陸部にヤードを構えている。
発生地に近いという土地柄、かつて3〜4年前までは比較的安定した価格で物量を確保できる市場だったが、2001年に近隣の小山でJSP関東ヤードが開設し、同時期に輸出の親和スチールが小名浜ヤードで集荷を始めると、一気に域内の市場は騒がしくなってきた。
ミリオン合金の藤井征一社長は、彼らBIGディーラーに対抗するべく持ち前のバイタリティを発揮し、多種多様な戦法で市場防衛に奮闘。近年のニッケル相場上昇による市況高騰もあり、採算性はやや低下しているのが現状だが、常に「熱きハートとタフな精神」をもって市場に挑むミリオン合金には停滞と妥協は許されない。現実を直視しながらもミリオン哲学或いは藤井哲学を貫徹させるために何を行うべきか?彼らはポジティブに市場競争を考え、今この時期に設備投資を行うべきだと判断し、ヤードを拡張し、解体物件も扱えるようにギロチンシャーを導入することに踏み切った。
■OLD中心の発生になることを見据えて
現在ギロチンシャーを設置している場所は以前メリヤス工場の土地だったが、その土地を買い取り、建屋を建て、ギロチンを設置。現在の敷地面積は1400坪。道路に沿った間口は130mある。塀の上部に取り付けている鉄板や重機には鮮やかなブルーがペイントされているが、これは社長のアイデアであり「当社はリサイクルに貢献しているというイメージをより強くアピールするためにブルーで統一した」(藤井社長)という。
前述したように今回の総投資コストは土地購入代含めて約三億にのぼるが、ここまでの投資投下に動かせた彼らの動機とは一体何なのか?藤井社長に熱く語ってもらった。
「ステンレスは鉄スクラップ業界の15年後を追いかけている。鉄スクラップの65%が解体物件などのOLDといわれており、彼らはそれなりの設備を整えている。今後ステンレスも新断ちのNEWスクラップが減り、OLD中心の発生内容に変ることは間違いない。実際、集荷競争によるものだけでなく、物理的に年々NEWが減っていることをひしひしと感じる。BIGディーラーに対抗しながら採算性に見合った物量を確保するには解体物件を扱っていかざる得ない。これまでもお客様から解体物のニーズはあったので、そのニーズを吸収して数量増を図ると同時に、ミリオン合金の鍛えられたヤード展開力を駆使し、流通トータルでみたヤードディーラーとしての競争力向上に万進していきたい。
眼に見えて投資効果は上がらないかもしれないが、ハードが整えば内容も伴ってくる。ストック能力もこれまでの倍になっており、今回の設備投資は必ずや副次的な効果が出てくるものと信じている」
■国内向け専業ディーラーにこだわる理由
国内のステンレススクラップ市場は、新日鉄系のJSP、輸出の親和スチール、一般国内向けの3つに大きく分けられると思う。そのなかで常に市況をリードしているのは輸出かJSPであり、国内向けの一般ディーラーはその狭間で揺れている(或いは揺さぶられている)。それまで国内向けだったディーラーが経済合理性を重視して輸出に傾くことも珍しくなくなってきた昨今、藤井社長はあくまでドメスティックにこだわる。この点については…
「輸出が全てを凌駕しているとは思えない。JSP、輸出と市場競争するなか、メーカーもバックアップしてくれている。専業ディーラーとしてそれに応えたいという気持ちが強い。国内需要がある限り国内メーカーに供給していく」と言う。
■ ONLY PARANOIA
ミリオン合金北関東支店は今年で9年目になる。藤井社長は還暦を迎えるという年齢だが、今日でも幅広い市場情報を集め、自からアグレッシブに発信しスピーディーに動いている。そんな藤井社長が今年揚げているテーマが「ONLY PARANOIA」である。その意味は、さらに己の仕事を偏執的に追及し集中力を高めていくというもので、それは理念理想をも超えた「業」と呼ぶにふさわしく、終わりのない旅を続ける修行僧のようでもある。時代の流れを肌で感じながらも時流に逆らうことも忘れないその姿勢に共感するファンも少なくない。
イナガキのギロチンシャー
今回、ミリオン合金に設置された250馬力・1000dギロチンシャーは、(株)稲垣製作所製のもので、意外にも同社のギロチンシャーがステンレススクラップ業者に納入されるのは今回が初めてである。ギロチンを扱う大手メーカーは他にもあるが、ミリオン合金の藤井社長によると「集荷規模から採算性なども含めて考えるとイナガキのマシンがベスト」という判断で設置が決定したとのこと。
イナガキの既存のギロチンシャーは鉄スクラップの剪断を想定した設計になっているため、今回納入するに当たって稲垣庄吉社長自身がアイデアを出し、ステンレスを切れ易くするための様々な工夫を凝らし改良が施されている。
その一例にシャー角度を鋭角にしたことがある。モノがステンレスだけに、切れにくく、ギロチンの刃がすぐに劣化すると言われているが、機械本体からシリンダユニットまで全て自前で作る稲垣製作所は、ギロチンの要である刃もユーザーの要望に応じてオーダーメードで作成している。
現在は鉄用の刃を取り付けているが、剪断状況を見て更なる改良を行う予定だという。
なにしろ同社にとってステンレススクラップ業界への参入は初めて。「ミリオン合金での設置と運転データを足がかりに潜在的ニーズの高いステンレススクラップ業界に対して、積極的にイナガキをアピールしていきたい」と稲垣社長は話している。 創業50年。浮き沈みの激しい業界で「稲垣製作所」を通してきた自負がある。どんな時代でも経営の本質を見失わず、小じんまりとした所帯で機械屋稼業に徹してきた。現場での作業効率性を向上させるため、彼らはマシン設置後も出来うる限りの改良を重ねていく。それがイナガキの基本姿勢であり、今なお高い技術的信頼性を維持できている源泉なのである。
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